大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京家庭裁判所 昭和42年(家)7475号 審判 1967年8月22日

国籍 アメリカ合衆国インディアナ州 住所 東京都

申立人 ジョージ・ビー・ラッセル(仮名)

本籍 長崎県 住所申立人に同じ

事件本人 川井美香(仮名) 昭和三二年一月九日生

主文

申立人が事件本人を養子とすることを許可する。

理由

一、申立人は、主文と同旨の審判を求め、その事由として述べるところの要旨は、

1、申立人は、一九六〇年(昭和三五年)七月二〇日日本人である申立外ラッセル・良子(旧姓山田良子)と婚姻した。

2、事件本人は右ラッセル・良子とその先夫川井利男との間の長女として一九五七年(昭和三二年)一月九日出生したものであり、一九六七年(昭和四二年)五月以来申立人および右ラッセル・良子に引き取られて養育されている。

3、申立人は、事件本人が妻である右ラッセル・良子の実子であり、事件本人を引き取つて養育している以上、正式に自分の養子として監護養育の責任を負うことを希望し、右ラッセル・良子もこれに同意している。よつて本申立に及んだ。

というにある。

二、審案するに、本件記録添付の各戸籍謄本、申立人提出の各疎明書類、家庭裁判所調査官寺戸由紀子の調査報告書並びに申立人および申立外ラッセル・良子に対する各審問の結果によると、次の事実が認められる。

1、申立人は、一九五七年(昭和三二年)頃当時在日米海軍軍人として佐世保で勤務中、申立外ラッセル・良子(当時川井良子、後山田良子)と知り合い、一九六〇年(昭和三五年)七月二〇日福岡市米国領事館に同人との婚姻登録をなし、かつ、米国領事の婚姻証明書をえて同日福岡市長に対し同人との婚姻届出を了し、以来同人と同棲し、同年一一月同人とともに帰米し、一九六五年(昭和四〇年)八月再び在日米空軍に勤務するため同人と来日し、肩書住所において居住していること。

2、右申立外ラッセル・良子は、一九五六年(昭和三一年)初め頃川井利男と事実上の夫婦として同棲し、一九五七年(昭和三二年)四月一二日同人と正式に婚姻届出を了し、事件本人はその間の長女として同年一月九日に出生し、右ラッセル・良子は一九五八年(昭和三三年)四月二六日右川井利男と協議離婚し、その際事件本人の親権者は右ラッセル・良子と定められたので、右ラッセル・良子は事件本人の監護養育を長崎県松島市平に居住する母(事件本人にとつて祖母)である田中ミヨに委託し、以後事件本人は右田中ミヨによつて監護養育されていたのであるが、右田中ミヨは一九六六年(昭和四一年)六月頃死亡したため右ラッセル・良子は申立人の了承をえて、一九六七年(昭和四二年)五月頃事件本人を引き取り、以来事件本人は申立人および右ラッセル・良子によつて監護養育されていること。

3、申立人は事件本人が妻である右ラッセル・良子の実子であり、しかも事件本人を引き取つて監護養育している以上、正式に自分の養子として監護養育の責任をとることを希望しており、右ラッセル・良子もこれに同意していること。

三、右認定の事実からすると、養親となるべき申立人がアメリカ合衆国人、養子となるべき事件本人が日本人であり、本件はいわゆる渉外養子縁組事件であるので、まずその裁判権および管轄権について考察するに、養子となるべき事件本人が日本に住所を有する日本人であることが明らかであり、また養親となるべき者はアメリカ合衆国人であるが、日本に住所を有しているので、日本の裁判所が本件申立について裁判権を有し、かつ、当家庭裁判所が管轄権を有することは明白である。

四、つぎに、本件養子縁組の準拠法について考察するに、わが法例第一九条第一項によると、養子縁組の要件については、各当事者につきその本国法によるべきものであるから、本件養子縁組は、養親たるべき申立人についてはその本国法たるアメリカ合衆国インディアナ州法、養子となるべき事件本人についてはその本国法たる日本法がそれぞれ適用されることになる。

ところが、養子縁組に関するアメリカ合衆国国際私法については、同国の判例学説により、一般に養子または養親の同国法上の住所のある国(または州)が養子決定の管轄権を有し、その際の準拠法は当該国(または州)の法律・すなわち法廷地法であると解されているので、養子たるべき事件本人の同国法上の住所が日本にあると認定される本件養子縁組については結局法例第二九条による反致により、養親たるべき者、養子たるべき者のいずれの側にも準拠法として日本民法が適用されるものといわなければならない。

ところで日本民法第七九八条但書によれば、本件の如き自己または配偶者の直系卑属を養子とする場合には家庭裁判所の許可を要しないのであるが、申立人の本国法であるインディアナ州法においては、かかる例外がなく、すべて未成年者の養子縁組は裁判所の養子決定を要することになつているので、申立人の勤務するアメリカ合衆国空軍における扶養家族の認定、将来におけるアメリカ合衆国への渡航手続等をも考慮すると、かかる本国法を尊重して、とくに本件については、家庭裁判所の審査を行なうべきものと解する。

五、よつて日本民法によつて審査するに、申立人らが事件本人を養子とすることに妨げとなるべき事情はなく、養子縁組の成立は前記認定の事実並びに家庭裁判所調査官寺戸由紀子の調査報告書によつて、事件本人の福祉に合致するものと認められるので、本件申立は理由があるというべく、これを許可することとし、主文の通り審判する次第である。

(家事審判官 沼辺愛一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例